「 人魚伝説 」(山口)

夏休み。青年は、人魚に魅了された。

人魚伝説。

下半身になまめかしい尾びれを持ち、上半身は美しい女性。ある地域では海で溺れた男を助けたことがきっかけで恋に落ちていく伝説があったり、あたある地域ではその美しい歌声で船を沈めてしまうという伝説もある。

大学の講義で聞いたこの逸話を聞いてからというもの、僕はアンバランスな魅力を持った人魚にどっぷりとはまっていった。もともとUMAとかUFOとか、そういう未知のものには興味があるほうだった。しかし、恥ずかしい話ではあるが、今までの人生で僕にはあまり女っ気がなかったのもはまっていった原因なのかもしれない。



そんな僕が大学の夏休みに図書館で読んだ本の中で、ふと目に止まる一行があった。

「人魚のモデルとなったカイギュウ、マナティー」

マナティーという動物がいるのは知っていた。だが、この動物が人魚のモデルになっていたとは知らなかった。いつも人魚の物語ばかり調べていた僕にとって実に意外な観点からの人魚伝説へのアプローチだった。



奇遇にも、今は夏休み。大学の休みは9月いっぱいまである。僕はこの休みは利用して本物の「人魚」に会いに行くことを決心した。



マナティーは海牛目に属し、北アメリカ、中央アメリカ、南アメリカ、カリブ海を主な生息地域とする大型の海棲哺乳動物だ。人魚のモデルが「海牛目」という分のがなんともおかしな話だが…。いやいや、きっと人魚と間違えるような美しい言われがあるのだろう。僕は期待と、むずがゆいような気持ちを胸に「人魚」の故郷である北アメリカを訪ねることにしたのだった。







飛行機を乗り継ぎ、僕はフロリダにやってきた。長時間のフライトと時差ボケでふらふらする体を奮いたたせて、予約していたホテルに向かう。じめじめした東京の夏とは違う、爽やかな気候。ここに「人魚」がいる…。僕は10年ぶりの友人に会うかのようなわくわくした気持ちを胸に秘めていた。「こりゃ、寝つけないかな…」そう想ったりしてみたが、ホテルにつくと僕は倒れこむようにして眠りについた。僕は明日、とうとう「憧れの人」に、会う。



翌日、僕はフロリダのとある港町を訪ねた。マナティーは割かし浅瀬に住むらしい。船でいってもそれほど長旅にならないだろう。慣れない片言の英語で僕は小型の船を出そうとしていた40代半ばくらいの男の人に話しかけ、船に一緒に乗せてくれないか頼んでみた。すると、こんな言葉が返ってきた。


「船に乗せてやるのはかまわないが、マナティーの海域まで連れていってやることはできないな。船のスクリューが彼らを傷つけてことがしばしばるからだ。そっとしておいてやれ。」



その言葉が僕の頭をガンと打ち付けた。せっかく日本からはるばるやってきたのに、という思いもあったが、僕たち人間が「人魚」たちを傷つけているなんて…。



がっくりと肩を落として帰ろうとした僕を見かねたのか、その男の人は「車で少し行った先の水族館に保護されたマナティーがいる。乗せていってやるから、帰り道がてら行ってみたらどうだ?」と声をかけてきた。僕はその言葉に甘えることにした。



日本にはない、だだっ広な一本道。
ただ続く荒大な景色を窓越しに眺めていると、


「おまえは何でマナティーを見にきたんだ?」

「…人魚伝説に興味があって。マナティーが人魚のモデルになったと聞いたんで」

「それでわざわざフロリダに?」

「はい」

「…なんでマナティーが人魚と言われたかは知ってるか?」

「いえ」

「マナティーは子供を一回の出産するんだが、その子供に乳を与えるときに、立ち泳ぎの姿勢になるんだ

「…」

「その立ち泳ぎの姿勢のときにな、子供を抱きしめるような格好をするんだ。その姿の美しさに、昔のヤツは人魚に見えたんだろうな。」

「…」

「ま、人魚をべっぴんの姉ちゃんだと思ってるヤツが多いがな。本当は優しい母ちゃんなんだぜ。」

「…!」



優しいお母さん。人魚と呼ばれたマナティーは、そんな心優しい動物なのか。
なんだか僕は、まるで下心丸出しで会いにいたような気がして、ちょっと恥ずかしいような気持ちになった。


「いい話が聞けました」


僕がそういうと、男の人はフッと笑ってまた視線を前方に向けた。







「着いたぜ。帰りはバスがでてるから大丈夫だろう。達者でな。」
男の人は僕を車から降ろすと、そう言って男の人は行ってしまった。



水族館はあまり流行っていないのか、それほど客で賑わっているわけでもなかった。
水族館へ入場し、しばらくあるいたところでその出会いは突然あった。


「これが…人魚…」


その姿は丸っこくて、決して美しいと言えるような姿ではなかった。
でも、マナティーの仕草やつぶらな瞳からはあの男の人が言っていたような「優しさ」をひしひしと感じることができた。



僕はしばらくその姿をぼうっと眺めた後、写真を何枚か撮り、帰路についた。







あの夏休みから半年、もう僕は人魚伝説にうつつを抜かすことはなくなった。
それは「人魚」にがっかりしたからではない。
もっと深い、大切な部分に触れることができたと思っているからだ。



時々、僕はあのフロリダの水族館で撮った写真を見て、こう思う。




















これ、セイウチくせぇなー。




(山口)



#小説



山口の特集 | 2007.08.29 Wednesday | 記事URL | comments(11)
コメント
これはいいセイウチですね
2900 | | 2007/08/29 12:28 AM
つかこれ日本じゃん
2901 | ounf | 2007/08/29 3:31 AM
いい話だとおもったのに!
2902 | | 2007/08/29 6:03 AM
ぎゃはははははは!!!
どこいってきたんだーw
2903 | | 2007/08/29 10:23 AM
>「マナティーは子供を一回の出産するんだが、その子供に乳を与えるときに、立ち泳ぎの姿勢になるんだ

ここを日本語でお願いします。
2904 | | 2007/08/29 10:53 AM
フイタ
2906 | | 2007/08/29 6:39 PM
カワイイ!
2907 | | 2007/08/29 10:15 PM
これはツボにきたw
2908 | | 2007/08/29 11:40 PM
よく似てますよね。
2916 | | 2007/08/31 6:47 PM
まさにセイウチ!(^^)!
3781 | 木下 | 2008/02/05 2:52 PM
100000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000
14127 | | 2010/03/10 6:19 PM
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