「 人間以外のモノに真剣に恋をしてみる 」(シモダ)


人間と味噌の調和。味噌は熱湯だけじゃなく人間とも溶け込むことが出来るんだ。
ほら、よく見てごらん。味噌だぜ。あ、あれ味噌?どう考えても味噌じゃないか。
妙に惹きつける哀愁が漂う、この秋最高のラブストーリーがここに。




■出会い




うすい水色の色水みたいなひかえめな空の下。僕と彼女は出会った。
初夏は日の光を強め、生成りのハンカチみたいな雲が、やわらかくそれを遮っていた。
白い結晶とは成りきれず、ひんやりとくねるような光と時間の反射を湛え、
てらてらと流れる多摩川の堤防に彼女はちいさく座っていた。






彼女は陶器のように滑らかで透き通るような白い肌をしていた。
変わった形のワンピースを着て、脚を折りたたむようにして座る穏やかなその姿は、
ちょうどその日のその場所にぴったりとなじんでいた。
わざと何も言わず、僕は彼女の隣に腰を下ろした。

何も壊すことなく、僕は彼女と同じ景色を見て、そして同じ風景になりたかった。
彼女の見つめる先。水と水の干渉と縞。水面にひかる角張った光の芯。
時間を含むすべての流れ。同じ時、同じように見つめた景色を、とても嬉しく思った。
始まりのない流れの中で、僕は恋に落ちた。





■告白




あの日から数えて2週間。川縁の大きな木の下、僕は彼女に自分の気持ちを伝えた。
僕が彼女の目線になり、彼女が少しはにかんで僕を見上げた。
オレンジ色のいくつもの小さな実が、彼女の瞳に映っていた。
こまやかな息遣いが聞こえて僕と彼女が笑った。

彼女が笑うときのえくぼと、怒ったときに下唇をかむ癖と、
それを見ていると自分が笑顔になることを、僕は知った。





■デート



僕達は毎日のようにデートを重ねた。
僕達は飽きもせず川面を眺め、そしていくつもの話をした。
多摩川は相変わらず穏やかで、水面に張られた光の網はしっとりと弛み、
ぷつりと切れてはまたつながった。
付き合う前には見るともなく眺めていた水の動きに、
たくさんの表情が隠れていることを知った。
そこには時間と位相があったし、そこには個と全体が、粒と流れがあった。
彼女が見せてくれる新しい表情は、そのひとつひとつが水の動きそれぞれのようにくるくると変わり、僕はそれをひとつずつ丁寧に記憶した。









冷たい海に沈んだ船の話。僕が好きな話だった。
知ってる?と、聞くと彼女は少し寂しそうに首を傾げたように見えた。
教えてあげるよ。僕は恥ずかしがる彼女の手を取り、穏やかな水面に浮かぶ船に乗った。水が跳ねて、彼女がひどく水を怖がり、僕が笑った。

水の上をはしる風を受けて、僕達は両手を広げた。
成功を夢見て船に飛び乗った画家と、家を守るために富豪と結婚させられるはずの娘が、人生で一番幸せだった瞬間を船に閉じ込めたように。
僕達の今が、この時が、止まればいいと思った。






■すれ違い



付き合い始めて、ひとつき。

彼女の事をもっと知りたかった。彼女の家族、故郷、友達、そして過去。
いろいろな話をゆっくりと、ことばを選んで、記憶のひとつひとつを手にとって感触を確かめるように彼女は話して聞かせてくれた。
僕はその声を聞き、言葉の意味を映像に変換して可視化した。
目をつむればまぶたの裏はくっきりとしたスクリーンになった。

僕は、もう、触れたかった。
耳で聞くよりも、目で見るよりも確かなこと。

僕は彼女に触れたかった。
本能として彼女を強く求めた。

それは彼女を見ていて感じる穏やかな気持ちとは裏腹で、とても強く僕を支配する彼女を溶かしてしまいそうな熱い想いだった。
その入り口に立って、僕は彼女の細い手をひいた。

彼女は泣いた。
理由はわからなかった。
僕達は愛し合っていたはずだった。

この日をきっかけに、僕と彼女の間には底の見えないぼんやりとして、しかし確かに存在する溝のようなものを僕は感じた。





■不安



それは目に見えず柔らかく、しかし確実に僕と彼女を隔てようとしている気がした。
別れの予感を振り払うように僕は彼女と毎日会った。
得体の知れない何かが僕達を拒もうとも、それでも僕は彼女に会わなくてはならなかった。

気持ちのすれ違い。人を想う故に心に滲む不安。
彼女と会うことでしか、その根本を絶つことはできないと思った。
出会ってすぐに恋に落ち、溶け合うように分かり合えたはずの僕らだったのに、時間が経つにつれ、彼女は固く気持ちを閉ざすようになった。

かたくなな彼女は儚く、そしてとてももろく見えた。










お互いが、自分を傷つけないように、距離を置いた話をしていた気がした。
いつもより早口でたくさんの言葉を発するのだけれど、どうしても足りない気がした。
表情は笑っていても、心の中は不安でいっぱいだった。
失うことの怖さを、少しでも忘れるために、僕は力いっぱい笑って、彼女に声を届けたくて、言葉を、心をつなげた。






あの日の彼女は、僕を見ていてくれたのだろうか。

彼女の目に僕は映っていたのだろうか。彼女の綺麗だったあの目に…。





■遭遇



僕と彼女の言葉、そして目線が交差しなくなった。
紡いで繋いだ言葉がついに途切れた。
考えたくないことばかりが頭をよぎり、苛立ち、言葉が出なくなった。
何を言っても彼女には届いていないような気がした。

僕は決心した。

彼女の手をとって、初めて出会ったあの堤防に行くことにした。
出会った頃、ただ純粋に彼女に想いをめぐらせたあの頃に、戻りたくて、あの頃みたいに笑ってほしくて。















堤防のそばを歩いていると、甲高い男の声が聞こえた。

ふと、目をやると魚肉ソーセージを持ってうろうろしている男がいた。
目元は落ち窪み、頬はこけてげっそりとしていたが、瞳はらんらんと輝き、腹はぷっくりと出ていた。

ひとりで大きな声で笑い、誰もいないのに話し掛け、必死に口説いているように見えた。
彼をじっと見ていると、まるで魚肉ソーセージに恋をしているかのようだった。

「キレイだよ」と囁いたり、「ごめん」と謝ったり、「ホテル…」と言いかけてやめ、恥ずかしそうに頭を掻いたりしていた。

一体、何が彼をそうさせているのだろうか。
彼にはあれが愛しい恋人に見えるのだろうか。
野をくるくるとバレエダンサーのように舞いながら、心の底から幸せそうに魚肉ソーセージを抱きしめる男を見て、僕はひどく悲しい気持ちになった。

帰ろうか。僕は彼女の顔を見れず、そう言った、





■別れ




家に帰ってからよく見たら味噌だった。



#小説





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シモダ の特集 | 2005.10.21 Friday | 記事URL | -
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